笹原 健児

海がたくさんのことを教えてくれました
人生の考え方を大きく変えたヨットとの出会い

2010年にイギリスで開催された小型ヨットの世界選手権に出場し、見事3位に輝いた笹原健児さん。
ヨットを通じてさまざまな人と出会い、海からたくさんのことを学んできたとのこと。
自身の人生観を大きく変えたヨットについて、また普段の仕事についてもお話をうかがいました。

きっかけは1枚のポスター 仲間と苦楽を共にした日々

国内外で開催されるさまざまなヨットの大会へ出場してきた笹原さん。社会人になってから水泳をするために通い始めたスポーツセンターで、1枚のポスターを目にしたことがヨットを始めるきっかけだったそうです。「ヨーロッパで毎年夏に開催される『カティーサーク世界帆船レース』への募集を呼びかけるものでした。このレースは、世界20カ国から3,000人の乗組員と100隻もの帆船が集まり、イギリスのシェットランド諸島からデンマーク北部のオールボアまで、1週間かけて航海をします。日本では4,000名の応募の中から9名が選ばれ、私も訓練生として乗船しました。ヨットが盛んなヨーロッパでは100年以上続く歴史あるレースなんです。」

もともとスポーツ全般が得意だったという笹原さん。「19歳のときに病気で片脚を失ったのですが、やはり何かスポーツをやりたいという思いから24歳で水泳を始めました。そこでヨットと出会った訳ですが、ヨットは老若男女、障がいのある・なしにかかわらず、楽しむことができます。船の上ではハンディキャップはありません。」そう話す笹原さんが、本格的にヨットを学ぶようになったのは、30歳を過ぎた頃から。「障がい者セーリングの活動を支援する『ヨットエイドジャパン』という団体で、中型から小型のヨットまで乗るようになり、技術を習得していきました。2004年アテネパラリンピックへの出場を目指して、オランダで行なわれた世界選手権などさまざまな大会に挑みました。その結果、晴れて選手として推薦されましたが、事情により参加できず悔しい思いもしました。」その後、本場イギリスで開催された世界選手権にも出場されたそうです。「2010年にイギリスで開催されたアクセスクラス世界選手権(現在の大会名:HANSA)では10カ国から出場者が集まりました。二人乗りの小型ヨットで8レースの総合順位を競った結果、3位に入賞することができました!」

着実に活動の幅を広げてきた笹原さんに、ヨットの魅力をうかがいました。「一番は海から見る景色が最高なこと。満点の星空や夕焼けには圧倒されます。時には強い風雨が体に打ち付けて心が折れそうになることもありますが、困難を乗り越えて、仲間と帰港したときの達成感や喜びは何ものにも変えられません。」

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目の前に広がる 世界で活躍するチャンス

現在、ウインドウォッシャーシステム開発のプロジェクトを担当している笹原さん。客先へ製品設計の打合せに出向くなど、社外に出張する場面も多いそうです。「ウインドウォッシャーシステムの小型化や軽量化を目指して、桐生・横浜の開発メンバーが参加し活動しています。仕事が忙しいときは大変だと感じることもありますが、他の方と同じように開発の第一戦で働かせてもらえるのは有難いことですし、やりがいを感じています。」

仕事とヨットを両立させながら日々を過ごす中で、感じる思いがあるようです。
「ヨットの活動を温かくサポートしてくれる職場の皆さんにも感謝しています。ミツバには障がい者の雇用を支援する特例子会社がありますが、そこでもたくさんの方が健常者と同じように仕事をされています。ハンディキャップを持った方でも、社会の中で一緒になって働けること、世界で活躍するチャンスがたくさんあることを、もっと多くの方に知ってもらいたいです。自分の存在がそのきっかけになれればいいなと思っています。」

自然の中で学ぶ 大切な心を伝えたい

前進を続ける笹原さんに今後の目標をうかがいました。「帆船を使った自然体験学習である『セイルトレーニング』をもっとたくさんの方に知ってもらいたいです。乗組員として操船や船の保守などの作業に加わり、団体行動で船を動かしていくトレーニングのことですが、私自身も経験し、人生の考え方が大きく変わりました。」日本ではあまり馴染みのない言葉ですが、欧米では盛んに行われているとのことでした。「例えば非行や不登校で社会になじめない子が、船の上での団体行動を通じて心が養われ、チームワーク、自主性、チャレンジ精神など人間形成に大切なものが培われていきます。自分自身の体験を通じて、周りの方にもセイルトレーニングの魅力を伝えていきたいです。」

ヨットにはレースを楽しむだけではなく、大切なことを学ぶ人間形成としての大きな役割もあるようです。「海には厳しさと優しさの両面があり、たくさんのことを教えてくれます。」

笹原さんのいつでも前向きな姿勢には、たくさんの波を乗り越え培ってきた強さと優しさが活かされているのかもしれません。

(2015年7月)